本当はもう、パリに移動して数日が経っている。
でも、未体験の田舎暮らしは語りたいことが満載。
もっとも感動した場所を締めくくりにしたいと思う。
カントリーハウスから少し車で走ったところに、花崗岩(かこうがん)でできた小さい山がある。
この中腹に清水が湧いて、小さな泉があるのだという。
夕方でもまだ暑い陽が照り付ける、白い石灰質の山道をてくてく歩いていくと、やがてせせらぎが流れる森に入る。
頬を流れるひんやりした空気。薄暗い木立。
段差のある小川を、上流に登っていく。
すると、広く浅くなって、流れがゆったりとした部分に、木漏れ日が細いいくつもの帯になって射しこんでいる。
奥の暗さと、光のまばゆさに目が眩む。
そこには、黒い翅をもつ蝶のようなものが、光の帯の間を飛び回っている。
いくつも、いくつも。
エメラルドグリーンとターコイスブルーを時折きらめかせながら、二つの影はもつれ合い離れ、また追いかけて踊る。
これは、現実なのかしら?自分はどこにいるの?
まるで、ディズニーの映画のワンシーン。
なんとかカメラで撮りたいと思っても、ひらひらと舞いながら枠から消えてしまうし、動いているからこそ煌(きら)めくのだ。
何枚もトライしながら絶対につかめない、もしかしたら掴(つか)んではいけない瞬間。
諦(あきら)めてぼうっと眺めていると、徐々に光に慣れ、それが糸のように細いトンボだということに気が付いた。
岩場や木の枝に、数多くのそれが翅を休めている。
日本ではハグロトンボという。
はばたきがひらひらと緩いので、飛んでいるときは残像で4枚の翅が6枚にも見える。
近づけばまたふっといなくなってしまうので、遠くからようやく撮ることができた。
青と、緑。
そして下がお気に入りの一枚。
源流は小さな泉。
石灰によりターコイスブルーをしている。
小さな泉の周りには、藪をかき分けて通る細い道がある。
ぐるりと回って、開けたところに腰かける。
しかし、近づけば透明度は高く、水温は低い。
小さい魚がいるなんて!
帰る道、森から出るころは陽は斜めになり、草原の影が長い。
なにか、映画の中に入って、そして抜けてきたみたい。
私はカタツムリ。
ゆっくり食べ、ゆっくり歩く。
遅いということは、エレガントなのだ。
ファストとつくもの、ファストフード、ファストファッション、、
世の中の早いサイクルに合わせれば、エレガントは消えてしまう。
特別なもの、特別な場所、それが、プレシャスでラグジュアリーでエクスクルーシブなもの。
それは、作り手も時間をかけて、買う人も時間をかけて探すもの。
「流されてはいけない。自分がいいと思うことをしなさい。自分がいいと思うものを作りなさい。」
それが、カントリライフの啓示。