パルファン サトリの香り紀行

調香師大沢さとりが写真でつづる photo essay

南仏のカントリーハウス⑤ Country life Ardèche

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本当はもう、パリに移動して数日が経っている。
でも、未体験の田舎暮らしは語りたいことが満載。
もっとも感動した場所を締めくくりにしたいと思う。
 
カントリーハウスから少し車で走ったところに、花崗岩(かこうがん)でできた小さい山がある。
この中腹に清水が湧いて、小さな泉があるのだという。
 
夕方でもまだ暑い陽が照り付ける、白い石灰質の山道をてくてく歩いていくと、やがてせせらぎが流れる森に入る。
 
頬を流れるひんやりした空気。薄暗い木立。
 
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段差のある小川を、上流に登っていく。
 
すると、広く浅くなって、流れがゆったりとした部分に、木漏れ日が細いいくつもの帯になって射しこんでいる。
奥の暗さと、光のまばゆさに目が眩む。
 
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そこには、黒い翅をもつ蝶のようなものが、光の帯の間を飛び回っている。
いくつも、いくつも。
 
エメラルドグリーンとターコイスブルーを時折きらめかせながら、二つの影はもつれ合い離れ、また追いかけて踊る。
 
これは、現実なのかしら?自分はどこにいるの?
まるで、ディズニーの映画のワンシーン。
 
 
なんとかカメラで撮りたいと思っても、ひらひらと舞いながら枠から消えてしまうし、動いているからこそ煌(きら)めくのだ。
 
何枚もトライしながら絶対につかめない、もしかしたら掴(つか)んではいけない瞬間。
 
諦(あきら)めてぼうっと眺めていると、徐々に光に慣れ、それが糸のように細いトンボだということに気が付いた。
岩場や木の枝に、数多くのそれが翅を休めている。
 
 
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日本ではハグロトンボという。
はばたきがひらひらと緩いので、飛んでいるときは残像で4枚の翅が6枚にも見える。
 
 
近づけばまたふっといなくなってしまうので、遠くからようやく撮ることができた。
青と、緑。
 
そして下がお気に入りの一枚。
 
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源流は小さな泉。
石灰によりターコイスブルーをしている。
 
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小さな泉の周りには、藪をかき分けて通る細い道がある。
ぐるりと回って、開けたところに腰かける。
 
 
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しかし、近づけば透明度は高く、水温は低い。
小さい魚がいるなんて!
 
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帰る道、森から出るころは陽は斜めになり、草原の影が長い。
なにか、映画の中に入って、そして抜けてきたみたい。
 
 
私はカタツムリ。
ゆっくり食べ、ゆっくり歩く。
 
 
遅いということは、エレガントなのだ。
 
 
ファストとつくもの、ファストフード、ファストファッション、、
世の中の早いサイクルに合わせれば、エレガントは消えてしまう。
 
特別なもの、特別な場所、それが、プレシャスでラグジュアリーでエクスクルーシブなもの。
それは、作り手も時間をかけて、買う人も時間をかけて探すもの。
 
 
「流されてはいけない。自分がいいと思うことをしなさい。自分がいいと思うものを作りなさい。」
それが、カントリライフの啓示。
 
 
 
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