パルファン サトリの香り紀行

調香師大沢さとりが写真でつづる photo essay

アラビアコーヒーの花 Coffea arabica

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初めて見たアラビア・コーヒーの花。
たった一輪、咲き残っていた。
 
純白の5枚の花は白い長い蕊(しべ)を持ち、花びらがらせんに反っている。
ジャスミンテイカカズラにも似た姿である。
 
コーヒーの花は一日ほどしか開花しないそうだから、危ういタイミングだ。
他の花は茶色く縮れ、枯れてしまっている。
 
 
「珈琲の花はジャスミン調の香り」
そう書いたものを読んだことがあるので、クリーミーな甘い匂いを想像していたが、
顔を近づけてみると、思いのほかすっきりとしたシトラス、グリーン、フローラルな香りだ。
 
ジャスミンのあのこっくりとした甘さは少ない。
 
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しかし花が開き始めてからどのくらいの時間が経っているかわからないので、もっと後になったらボリュームのある香りに変化するのかもしれない。
 
一輪だけでなく、たくさんの花が咲いていたら、また違って感じられるだろう。
 
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実は2週間前に温室に来た時には、このコーヒーの木には、小さな緑色の、固い印象の花が鈴なりについていた。
 
本で見た写真では、もっと大きな白い花だったので、
「これからもっと花びらが伸びて白くなるのか?それともこういう種類なのだろうか?」
と興味が湧いて、ずっと観察を続けたいと思っていた。
 
ところが連休が明けてものすごく忙しくなってしまい、だいぶ日がたってしまった。
 
だから、もう花は終わってしまっただろうと諦めていたところであった。
 
この、黄緑から白に変わる途中の段階が見たかったなあ。
 
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2週間前のそのとき、ツボミはほんの少し口を開いていた。
 
木は3メートル近くあるが、花は低いところにも咲いているので、そばによって香りを確認してみる。
 
グリーン・ビターな香りがする。
まるで、コーヒーの苦みの様な匂い。
 
コーヒーのあの特有の香りは、豆を焙煎した香りなのだから、花からコーヒーの匂いがするというのも不思議なものだ、そう思ってまたよく嗅いでみた。
 
コーヒーを飲んだ時、口に残る苦みの部分だけの香り。香ばしさ抜きで。
 
 
お茶の苦みのシス-ジャスモン?
でも、もう一度香りを嗅いで反芻し、記憶の中から近いものを引き出したところ、ステモン(stemon)の苦味のほうがしっくりくる。

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ステモンは茎(ステム)を折ったときに匂うような、フレッシュで癖のある苦いグリーンの香りだ。

ルー(ヘンルーダ)というミカン科の草の葉をもむと、このステモンの匂いがする。
ミュゲやイチジクの葉、トマトやスイセンにも入っている。
 
 
 
ステモンとコーヒーは香調の上では結びつかないけれども、花の蕾をそう感じたことが自分にとっては大切で、どのくらいの重さでか、というと、
 
①もし私がコーヒーの調合香料を作るなら、ステモンを隠し味に使うかもしれず、
②さらに将来「日曜の午後」というテーマで香りを作ることがあったとしたら、そのコーヒーベースを処方の中に使うかもしれない、
③だから「日曜の午後」にはステモンが微量入っているかもしれない、
 
という程度に大切。
 
 
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①蕾・・・ビターグリーン
②花・・・シトラスグリーンフローラル
④焙煎豆・・・ピラジン系のローストされた苦みのある香ばしい香り
 
今まで気にしたこともなかったが、この③に入るはずの生豆の香りも、一度嗅いでみたいものである。
 
上は、2013年4月7日にアップしたアラビアコーヒーの写真。
コーヒーの木がどういう年間サイクルで、花を咲かせているのかまだ不明。
 
 
 
 
 
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