
久しぶりの休日、本屋からの帰り道、シャラシャラという水の音が聞こえた。ビルの敷地を切り取るように造られた、公園のせせらぎに惹(ひ)き寄せられる。しばらくたたずみ水流音に耳を傾けていると、頭の中も洗い流されるような感覚があり心地よい。
小流れの御影石(みかげいし)の縁(ふち)には、平日の昼間は多くの人が座っているが、日曜の夕方は閑散としている。ふと「座ってみようかな」という気になった。
すると足元にいくつもの赤い実が落ちているのに気が付いて、上を見上げるとヤマモモがたくさんなっている。

つまみ上げ匂いを嗅いでみる。それは予想していたベリー様の甘い香りでは無く、フルーティでもなく、むしろグリーンで、ピーリーな苦みを持つシトラスノートであった。平たく言えば、ミカンの皮を剥いたときの果実の外側にある白い筋のような匂いとでもいおうか。ほかにシトロネロールや、わずかに涼やかなカンファーノートが混じっている。
軽く洗ってほんの少しかじってみる。酸っぱくて渋みがあり、匂いを嗅いだ時とはまた違うエステル香もある。
匂いと音に集中すると雑念が消えていく。
そして香りをひとつ知ること。何かを自分の中に発見するというのは楽しいことだといつも思う。