ヴァランソル高原の農場行きについてもう5回にわたってしまった。
この5日間にも、小さな村めぐりのこと、ガリマール見学、グラースのお客さんのことやボタニカルガーデンやプチ女子会など、日々書きたいことがたくさんたまっていく。
そうこうしているうちに明後日にはカンヌを発ちパリに移動する。
パリはパリでなんかいろいろありそうだから一気にここで書いておかねば。
というわけで昨日からのつづき、クラリセージだ。
クラリセージの畑はラベンダーより薄紫で、透き通るような苞が畑を明るく染めている。
近くによって手で触れてみる。
ええー?クラリセージって、こんな香りだった?
フレッシュな状態の花はツンとした刺激臭がする。
オキサンとか、ブッチェリーフのような、腋の下の汗のような強烈なにおい。
そしてアニマル。
香料はもっとリナロールや紅茶のような さわやかな苦味のあるにおいがする。
オブリー氏がクラリセージの花を手折って太陽にかざす。
「ほら、こんな風に日の光を透かして見ると、クラリセージの産毛の中に精油の粒がみえるでしょう?」
こちとら目が乱視なもんで、そのとき肉眼ではさっぱりわからなかったが、一生懸命撮った写真をあとから拡大してみると確かに毛の中に油胞がにじみ出ているのが見える。
クラリセージ畑。ラベンダーよりも淡い。
藤色のじゅうたんが、これも延々と続く。こんなの初めて!!
「こっちに来てみて」
農場のオーナーであるオブリー氏に言われて畑の中に分け入ってみる。
強烈なにおいに包まれる。
歩くたびこすられたクラリセージから立ち上る香りがする。
着ているものはきっとクラリセージの精油の香りに染まっているだろう。
見渡せば360度クラリセージ畑だ。
別のクラリセージ畑にまた移動する。
ここはちょうど刈取りの最中。
刈取りと同時に粉砕し、コンテナにどんどん収穫していく。
「おーい、satoriもこっちに来てこのコンテナ車に乗ってみろ!」
サービス精神旺盛なオブリー氏に言われ駆け寄り、狂喜して2階くらいに高いトラクターの運転台に乗せてもらう。
その時の私と言ったら、梯子をするすると登る猿(ましら)のように素早かった!
こんな大きい車、運転してみたい!すっごいかっこイイ!
運転台はとても高い。
刈り取られたクラリセージは蒸留所に運ばれる。
山道を降りていくコンテナ車。
工場でトラックから切り離され、コンテナが下ろされる。
蒸留所にはたくさんのコンテナが蒸留されるのを待ち並んでいる。
このコンテナに蓋をして、パイプで直接蒸気を吹き込み、蒸留するのである。
蒸留中の湯気がもうもうと上がり、辺り一面においが立ち込める。
この湯気は冷やすための水が水蒸気になって上がっているもの。
なんと、においは生の状態とまたまったく違い、野菜をゆでているような匂いがする。
そして、ベースには樹液の蜜のような煮詰めた匂いがする。
近くに置いていた車の中までこの匂いが立ち込めて、帰りもずっと匂っていた。
蒸留されたばかりのエッセンスをムエットでかがせてもらう。
この時にはすでに、ラボでいつも嗅いでいる香りに近く、紅茶のような爽やかで少しビタースモーキーな匂いに近づいている。
これは蒸留の最初のものから、最終の段階までをミックスしたものである。
蒸留の最初のものと最後のものでは匂いが違う。
それぞれをかがせてもらったが私は最後のほうがバルサミックで好き。
タンクに入れる途中のパイプから組んでくれたエッセンス。
透明なカップの上部に、薄い黄色の層が見える。
これがクラリセージのエッセンシャルオイルである。
下の乳白色の部分は蒸留水。
ほかにも、工場の機械部分をたくさん撮影させてもらった。
メカの部分って、ロジカルだし美しくってすごく面白い。
私のとった写真はPCWの資料に使われるうらしい。
ちなみに、この蒸留残滓は麦畑に放置される。
発酵につれスクラレオールが生成される。
スクラレオールは合成アンバーのアンブロキサンの出発原料である。
ラストノートに使われる。
工場の横の檻の中に、たくさん犬がいるなあと思ったらこの子たちはトリュフを探すトリュフ犬。
冬になってトリュフの時期になったら、前回登場した樫の木の森に行くのだ。
この農場がいつから始まったのかは定かではないが、ここに併設されたおおきな田舎家には1786年の礎石が埋まっている。
フランスの香料の歴史の深さを知る思いである。
さよなら、ありがとうございます。
今度はラベンダーの時期に来たいです。
暑かったので車の窓を開け放しにしていたら、車内にものすごい数のハエが入っている。
100匹はいるんじゃないかな。
追い出しても一向に窓から出ていこうとしないハエたちと格闘しながらまた帰りの道中であった。
東京で終わらなかった仕事を南仏で片付けようと思っていたが、こっちへ来たらきたで「こっちでしかできないこと」のほうが優先になってしまい、「このままこの持ち帰ってしまうのか?」「そうすると南仏やパリで増えた用事も東京へキャリーオーバーか?」とちょっぴり心配になる。
この感覚・・・。夏休みも半ばを過ぎてくるとちらとよぎる「8月31日の恐怖」に近いものがある。
トラウマになっているようだ。
来る前に読もうと思って買ったアマゾンの電子書籍キンドルは、行きの飛行機で使い方を1時間読んだだけでまだ鞄の中に入りっぱなしだ。だからつかいなれないものを持ってくるとダメなんだけど。。。
あ、そうそう、これを読んだ方からのメールで、どうもわたしはバカンス中と思われているようだが、半分は仕事もしておるのだ。
フェイスブックなどで出張中の方の記事が食ばかりなのを見て、遊んでいると思っていたが、仕事の内容はなかなかかけないものであるから、勢い遊んでばっかりいるように見えてしまう。
と、言い訳しつつ、カンヌの夜は更けていくのであった・・・・。