なんやかやで、ずっと散歩に来れなかった。
忙しいと頭は煮詰まるし、気持ちがパンパンになってしまう。
やはり来てよかった、いつもそう思う。
吐く息が白い。
ふたたび深く息を吸い込むと、朝の木の精を吸いこむようだ。
全身で朝を味わう。
草木の呼吸を感じる。
心に溜まった滓(おり)が知らぬ間に消えていく。
魚が水の中でしか生きられないように、私は植物のそばにいなければ窒息してしまう。
砂利道と芝生の上では足裏の感覚が違う。
目に見えるもの、におい、空気の冷たさ、遠い鳥の声。
この坂は、いつもほのかにクマリンの匂いがする。
この曲がり角はブラックペッパーのようなウッディスパイシー。
死んでしまったように見える静かな母子森の池のほとりでさえ、
地面の下には「いのち」がみっしりと満ちている。
もしかしたら、冬は一番楽しい季節なのかもしれない。
いつだって、前夜祭はワクワクするものだから。