パルファン サトリの香り紀行

調香師大沢さとりが写真でつづる photo essay

雪のにおい

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東京でも昨日から雪がたくさんふっている。
春と冬を行ったり来たりする今の時期らしい。

昭和30年代。
私の小さい頃は、東京でももっとたくさん雪が降った。

赤坂の家では庭でかまくらもつくったし、兄弟で雪合戦もした。
母が揚げたてのコロッケを買ってきた。
私たちは白い息を吐きながら、新聞でくるんだ熱いコロッケをほおばった。

昔のありふれた風景だ。

 

下から空を見上げると、明るいグレイの空から落ちてくる、雪片は「白ではなくて灰のようだ」と子供心に思った。

それでも、セーターの上にとまった雪の中には、肉眼でも見えるきれいな六角形の結晶もあったように思う。

「雪の降る前、外は一瞬無音になって、あたりがすうっと冷たくなる。
そして夜中、いよいよ降りだすと本当に『しんしん』と音がする。」
母は自分の小さかった頃のことをそう思い出す。

 

 

中谷宇吉郎博士の観察した北海道の雪は詩的だ。

「風がなく気温が零下十五度くらいになった時に静かに降りだす雪は特に美しかった。真っ暗なヴェランダに出て懐中電灯を空に向けてみると、底なしの暗い空の奥から、数知れぬ白い粉が後から後からと無限に続いて落ちてくる。それが大体きまった大きさの螺旋形を描きながら舞ってくるのである。」(雪;84p,)

しかし、同時に雪の猛々しさも語っておられる。
雪国の苦労は、暖地の人間には本当のところ想像しきれないと思う。

  

 

さて雪の匂いは、雪からするのだろうか?


雪を手ですくってもあまり匂わないけれど、
雪が降るときは、雪の匂いがする。

冷たいミュゲ系・アルデヒドのダスティな香り。

 

空気は無色透明だが、空は青く見える。
それは大気圏中の塵によるそうである。

 

遠い、高い空の、細かい塵が核となって、雪の結晶は無数に落ちてくる。
東京の雪と北国のきれいな雪は、違う匂いなのだろうか。

 

 

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