「香道への招待」は本のタイトルであって、私がご招待などとはおこがましいことである。
調香の教室では、一般教養の中に「香道」も触れる単元があるので、これらの本はその参考書の一部とさせていただいている。
この20年アロマやフレグランスのブームもあって、お香に興味を持たれる方も多くなったと思うが、「香」の世界はまた一段と深遠で、一般の方から見ればまだまだ「ぼんやりとこんな感じ・・・」、という方がほとんどだと思う。
かく言う私も、日々精進されている香道の専門家から見れば、ごく浅学なものであるので、ひとつ説明するにも謙(へりくだ)らずを得ない。
私自身、調香師としての努力を積み重ねて来たつもりである。であればなおさら、他の専門分野についての敬意から、伝えることの難しさ、ためらいをいつも感じてしまう。
ブログではとりとめなく、毎日思うところを書きながらも、香道のことになると、いつか触れようと思いつつさらりと書くわけにもいかず、とても慎重になり避けてきた感がある。
なので、ごく一般の方々のほうに身をおいて、私の体験などを交えて、先達の残した書籍などを紹介しつつ、気負うことなく話すことができれば、と思う次第である。
「香道への招待」(北小路功光 成子 著)は、随筆を交えた香道の手引書である。
一ページめの終わりに、'まず、香は「聞く」と言う。嗅ぐとは言わない。匂いに質問して、答えを「聞く」のである。'(香道への招待,1978,p1)とある。
内容についてはおいおいご紹介するつもりだが、香の作法や手前など細かく書いてあるだけではない。
日本における香の始まり、源氏物語の薫物から、東山文化に香道の完成をみる、その変遷と背景など、歴史的な内容、そして茶道や華道、能など、他の芸能との関わりなど、和の文化全体を大きく俯瞰することができる。
名前からも察せられるとおり、公家の出ならでは、筆者ご自身が実際に手に取られた名香や宗匠との機知にとんだ会話などを語っておられ、興をそそられる。
一見して、取り付きにくそうな、難しげな本であるが、読み進むにつれ、かしこまらず、洒脱な語り口は味わいが感じられる。
なにより、手引書でありながら、「いくら本を読んでも香道家にはなれない。本と首っ引きで、手前の手順を覚えても、実際にはできない。」(同著, p61)とあけすけに書いてあるのが面白い。
「芸道には、インスタント・ラーメンに湯を注いで出来上がる方法は一つもないのである。茶道の本を読んで茶人になった人は一人もないだろう。生け花の写真で、華道の奥義に達した人もないに決まっている。」「ただ、良師について、実際にやるしか方法はないのだ」(同著,p61)と続く。
道は違えども、おっしゃることは「そうそう、そうなんですよ、」と膝を叩きたくなることしばしば。
しかし、香道入門書には常識と書かれていることに対する疑問点や、反駁なども随所にされていて、ある程度知識がないと、何が面白いのかわからないかもしれない。
一方で、すでに茶道のような他のお稽古をされている人には、重なる部分も多く、共感できることが多々あるに違いない。
「香について」は、また後日に少しづつ続けていきたい・・。