アレクサンドル・デュマ 初代「黒い悪魔」
この「黒い悪魔」はデュマ三代の物語の始まりである。
「黒い悪魔」の主人公アレクサンドル・デュマは、3代続く傑物である、
息子が「三銃士」「モンテクリスト伯」で有名な小説家だし、そのまた息子のデュマも「椿姫」を書いた作家だ。
先週末に「本の話」(文芸春秋社)で紹介したように、この「黒い悪魔」はデュマ三代の物語の始まりである。
初代デュマは、フランス植民地時代のサン・ドマング島(今のハイチ)に、奴隷女とフランス貴族の農場主のあいだに生まれる。
奴隷の子として生まれ、父親に取り残されるが、やがてフランスへ呼ばれ貴族の教育を受ける。しかし、父親と反目、縁を切って一兵士としてフランス軍に入隊、 並はずれた肉体によって頭角を現していく。
カフェ・ノワール。前線で鬼のように強い彼は敵国軍隊に恐れられ、その肌の色から「黒い悪魔」と称され、将軍にまで上りつめる。
波乱万丈の生涯は、フランス革命の背景やナポレオンとの確執などと絡みながら綴られる。アメリカ人と蔑まれ、黒人差別と闘い、その中で、「個」の人間の努力の凄さと、一人の一生という短さでは、歴史の流れにあらがえない事実を浮き彫りにする。
虐げられた子供時代から、神々しいまでの美しい体で活躍する壮年までは血が沸くが、病み衰えていく晩年の哀しさは、読み進みにつれ辛くもあった。
プライドとコンプレックスを行ったり来たりしながら、常に反骨精神を失わなかった彼の血は、文豪である息子「アレクサンドル・デュマ」へと引き継がれ、あの「モンテクリスト伯」を生む遠因になっているのであろう。
代を経るごとに白人の血が混じるにつれ、次の作品で「褐色の文豪」息子デュマ、完結は孫のデュマ「象牙色の賢者」へと、色合いが淡くなってタイトルとなっている。
作家の生涯を描いた、佐藤賢一氏の傑作。