パルファン サトリの香り紀行

調香師が写真でつづる photo essay

FRAGRANTICA ロングインタビュー(日本語)

 

FRAGRANTICA(フレグランチカ) - Parfum Satori - ロングインタビュー(日本語)

 

香水専門データーベースサイト「フレグランチカ」にロングインタビューが掲載されましたので、一部を日本語バージョンにてご紹介致します。(こちらは英文の対訳ではありません。)

 

Here in Part 1, we meet the perfumer and learn about her inspiration and artistic approach. In Part 2, we'll get to know one of her creations, Iris Homme.

 

Marlen Harrison:  日本はヨーロッパの国ほど身にまとう香りの歴史はありませんが、仏教や神道やもちろん香道などの影響もあり香りをとても楽しまれているようですね。

 

*Osawa Satori: はい、そうですね。香水の起源はヨーロッパにあり、それは「液体化された香り」の歴史です。

一方日本には「お香」という、固体の香料を使った空間芳香の歴史があります。

6世紀に仏教伝来と共に始まった香の歴史は、10世紀の貴族文化によって洗練された遊びとなり、さらに15世紀の武家の時代には、精神の高みに至る「香道」が成立していきました。茶道に代表される「道」とは、精神練磨を糧とし、教養と芸術性を高める日本独特の文化です。

また空間芳香のみならず、平安時代には「香染」と呼ばれる、丁子(クローブ)や桂皮(シナモン)で染めた絹織物がありました。それは美しい色のみならず、繊維から芳香を発するという、貴族のための贅沢な衣装になりました。体温で暖められた着物からは、動きに合わせて香りが漂ったそうです。

なかでも「源氏物語」には、着物に香を焚き込める「薫衣香(くのえこう)」というシーンが印象的に描かれています。香りによって物語の背景や登場人物の心情まで語りました。戦国時代には、心得のある武将は兜の中に香を焚きました。首を取られても、その香りで名のある武将だと知らしめたと伝えられています。

このように、直接アルコリックを肌につける「香水」とは異なりますが、日本でも、異なる形で香りを身にまとう歴史がありました。

18世紀頃から、商人が力を持ち、香り文化が一般庶民へまで普及していきました。神から帝、貴族、武士、商人へと、上から下へ広がっていく香り文化は、西洋の香水と同様な経緯をたどってきた様に思えます。

明治時代に日本が鎖国を解き、香水が持ちこまれてからはまだ150年あまり、「液体化された香り」の歴史は、ヨーロッパに及びません。しかし、このように日本にも1400年の「固体からの香り」の歴史があります。

現在でも、一般家庭には仏壇があり、毎朝、毎晩お線香が焚かれています。私たちは子供のころからその香りになじんできました。

また日本の香り文化は香木だけではありません。四季折々に訪れる香り、和食では海の物、山のものと、季節感溢れる旬の香りを楽しみます。私たちが子供から大人へと成長する過程で、香りは生活に密接に結びついています。

香道では香りは「嗅ぐ」ではなく「聞く」と表現します。私たちは鼻で芳香分子を物理的にとらえるだけではなく、香りの語る物語を心で聞き、情操で感じるのです。香りの声、それは大声ではありません。花が咲いて芳香があるから、よい香りの花なのではなく、美しい匂いと感じる感性があるからこそ香るのです。

日本では繊細な感性によって香りを楽しみ、慈しんできたと思います。

 

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Is there such a thing as a Japanese style of perfumery? Please tell us your thoughts.

 

Marlen Harrison:  日本スタイルのパフューマリー(香水ワールド)というのはありますか?あなたの考えを教えてください。

*Osawa Satori: 日本的な香りと言うと、匂い袋や線香のような香調だけを思い浮かべがちですが、実際には、シンプルでトーンの軽い、花や季節感のある香りが好まれています。中でもシトラス・ノートは、特に好まれる香りのひとつです。日本は柑橘類の種類が豊富で、和食にはユズ、カボス、スダチなどを微妙に使い分け、その香りの違いを細かく判断しています。従ってシトラス・ノートのバリエーションというのは多すぎることがなく、常に好まれているタイプです。

日本の私の顧客の多くは、人に対してアピールする香りというよりは、自分自身が心地よい香りの中にいたい、そういうリクエストが多いように思います。海外からのお客様に関して言えば、単なる日本のおみやげ物にとどまらず、こういった感覚に共感されて日常に使うものとして持ち帰られる方が増えてきたように感じています。

 


 

Marlen Harrison: このような近代の香水が普及してきた様子をどのようにご覧になっていますか?日本の香り文化とはどこが違いますか?

*Osawa Satori: 西洋で、香水が身近で日常的なものだとしたら、日本ではまだまだ生活に溶け込んでいるとは言えません。私の子供のころは、(円も安かったので)香水はとても高価なものでした。海外からの珍しいお土産としてとか、特別な日に使うもの、といった人が多かったと思います。また、男性が香水をつけるのは気取っていると思われた時代です。

今は若い人も気軽に買えるような値段になりましたし、つける男性も増えていますので、ずいぶん一般的になってきたと思います。ただ、どんな香りを選んだらいいか、何をつけたらいいかわからない人もまだ多く、ランキングに入っている香水や、たくさんコマーシャルされているものをつけてみる、という段階でしょうか。

日本には、「香水は使わないが香りは好き。しかしそれは、アロマで使うエッセンシャルオイルとも違う。」という女性は少なくありません。スーパーの生活用品売り場のコーナーで1時間も費やして芳香剤や柔軟剤の香りを嗅いでしまうとか、香りを体に付けたいわけではないが、空間、例えばキャンドルを香らせてリラックスしたい、すっぴんになった後も衣服を香らせて楽しみたい、とも言います。

今の日本の芳香剤、柔軟剤市場は活況となっています。

フランスでは、お風呂上りにお母さんが子供のオデコにちょんちょんとオーデコロンを付けてあげたりするという話を聞いたことがあります。そうやって香水に親しんで大人になっていくのはいいですね。

日本でも、幼い頃の家庭の香りの記憶とともに香水への心理的ハードルが低くなり、日本らしい、また新しい香水文化が育まれることを望んでいます。

 


実感としては私の孫世代になったらようやく香水の着こなしができる、日常的なものとなるのではと思います。

 

The World of a Japanese Perfumer: Part 1

香水専門データーベースサイト「フレグランチカ」にロングインタビューが掲載されましたので、一部を日本語バージョンにてご紹介致します。(こちらは英文の対訳ではありません。)

 

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