パルファン サトリの香り紀行

調香師が写真でつづる photo essay

刻印器 Personal embosser France

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白い紙に浮き出たパルファンサトリのロゴ。
紙を挟んでレバーを引くと刻印が打てるエンボッサーという。
 
20年ほど前に、日本の商社が海外のこの器具を輸入していて、フォントも形もサイズも決まったものだったけれど名前を入れて、自分用にオーダーしたことがある。
 
これを使えば、封筒でも便せんでも、ちょっと高級感のあるオリジナルのものになる。
当時はとても新しいものだった。

 
2000年にパルファンサトリのサロンを始めたとき、新たにブランド用の刻印を作ろうと思った。しかしその頃には、日本での取り扱いをやめてしまったのか、もう見つけることが出来なかった。
 
もちろん、専門の印刷会社に頼んで大量に作れば、いくらでも刻印入りの封筒や便せんくらいできるのだが、まだ独立したばかりの小さな香水の仕事では、そんな贅沢はできない。
 
 
その後しばらくして、2003年頃だと思う。パリのサンジェルマンデプレ界隈を歩いていたときに、おしゃれなステーショナリーのお店でこのエンボッサーを見つけた。
 
私が欲しかったもの。胸がドキドキした。
 
そこで売っていたのは、決められた形ではなく自由にロゴを作ることができるものだ。
器具の形や重さも気にいった。
 
 
 
「いくらですか?」
お店のおじいさんに聞く。
 
それは、当時の私には、ほいっと払うにはちょっと考える値段だった。さらにオーダーしてから受け取りまで2週間以上かかるという。
 
見つけた日はすでにパリ滞在の残りが1週間を切っていたので、しかたなくあきらめた。
 
あきらめたけれど、忘れなかった。
 
その後たびたびの訪仏のおり、サンジェルマンの近くに行けば寄ってウィンドウを覗いてみることもあったけれど、時間がなかったり忙しかったりで買うことができないまま10年がたった。
 
 
 
今回のパリ滞在は、オルセー美術館の裏にあるホテル。
ふと思い出して行ってみることにした。
 
今回はドゥーヴィル、パリ、南仏、パリ、東京と、パリに2度滞在するうえ、南仏に2週間いるので時間的には充分。そして今の私には、買えない金額ではない。
1度目のパリでオーダーし、帰りのパリでピックアップすることにした。
 
 
 
2014年6月30日、お店を訪ねてエンボッサーを手にする。
 
代替わりした息子と思われるお店のおじさんが、私の顔を見て押してみろという。
白い紙に浮き出た[PARFUM SATORI] の文字。
 
フランスでの10年の私の仕事が、この12文字の中に込められている。
 
 
もしかしたら、今の印刷技術の発展の中では、もっと簡単に別の方法があるやもしれず、このエンボッサーに10年前と同じ価値はないのかもしれない。
 
でも、これは私の築いてきた道のり、刻んだサイン。インディペンデントの象徴。
 
だから、紙のふくらみが愛しい。
 
 
 
 
 
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