ヘルマン・ヘッセ 庭仕事の愉しみ
ヘッセの絵と詩と植物と
文豪、ヘルマンヘッセが庭を愛し植物を育て、絵を書いていたという一面は、大人になって知りました。
こうした庭の景色など、情景描写ももちろん素晴らしいのですが、挿絵の、ヘッセの愛らしい水彩画に触れると優しい気持ちになります。
雪のようなと表現される、タイサンボクの白い大きな花の姿。
その、レモンを連想させる香りが書斎に吹き込んでくる様子ひとつとっても、自分がその場所にいて、風や光やにおいが目の前にあるように感じます。
「メルヒェン」から「庭仕事の愉しみ」へ
ヘルマンヘッセの文学は、多感な中学高校時代に長編を中心に読んだためか、シリアスで悲劇的なイメージがあり遠ざかっていたのですが、
数年前、フレグランススクールの若い生徒さんから、ヘッセの「メルヒェン」という童話集を勧められて読み、また夢中になりました。
これらの庭での暮らしが、「メルヒェン」の大好きな一話「イリス」の、夢の中をさまようような美しい世界の描写に繋がっているのだと思います。
その流れでいくつか手に取ったうちの一冊がこの「庭仕事の愉しみ」です。
調香の仕事をしながら、処方の中の1万分の1や、10万分の1の香料をああでもない、こうでもないと足したり変えたり、こだわって調整する作業は、スピード感のあるビジネスの世界では徒労に思えることもありました。
そんなときに偶然読んだ、 ヘッセが息子マルティーンにあてた手紙の中の一節がとても共感できたのでとどめておきたいと思います。
「詩人が、もしかしたら明日にも破壊されているかもしれない世界の真っただ中で、自分の語彙を苦労して拾い集め、選び出して並べることは、アネモネやプリムラや、今いたるところの草原で成長しているたくさんの草花がしていることと全く同じことです。
明日にも毒ガスに覆われているかもしれない世界の真っただ中で、花たちは念入りにその葉や、五弁あるいは四弁あるいは七弁の花びらや、なめらかなあるいはぎざぎざの花びらを、すべてを正確にできるかぎり美しく形づくっているのです・・」231頁より抜粋/ヘルマンヘッセ 庭仕事の愉しみ
『ヘルマン・ヘッセ 庭仕事の愉しみ』
フォルカー・ミヒェルス編 草思社文庫 2011年
庭仕事は瞑想である。草花や樹木が教えてくれる生命の秘密。
文豪ヘッセが庭仕事を通して学んだ「自然と人生」の叡知を詩とエッセイに綴る。
自筆水彩画を多数挿入。
※本の紹介文は、版元の出版社様のホームページから転載させていただきました。