パルファン サトリの香り紀行

調香師大沢さとりが写真でつづる photo essay

娘道成寺と桜

娘道成寺をモチーフにしたうろこ柄と桜の扇子

娘道成寺と桜

飾りものや着物の柄は、季節の先へと進む。
桜の盛りをこれから迎えようとする頃には、すでに桜の飾りは遅い。

安珍清姫

三角形の図案は「鱗(うろこ)」を意味する、日本の古典柄。鱗模様と言えば蛇。蛇と言えば道成寺、となるわけである。「安珍清姫(あんちんきよひめ)」という昔話を聞いたことはないだろうか?

『修業中だからと逃げられても、美しい僧侶・安珍を慕うあまり、清姫は蛇になってどこまでも追いかけ、最後は梵鐘の中に隠れた安珍を恋の炎で焼き尽くす』という情念の話は、小さい子供には山姥(やまんば)と同じくらい怖かった。

怖いけど聞きたい話。夜、布団の中で思い出してトイレに行けなくなってしまったものだ。しかし、能や歌舞伎、日本舞踊では女形舞踊の最高の演目と言われている。
そこで、ひとひねりして桜の季節にこの掛け物をしたわけである。

 

刀の柄頭に施された鐘と桜の象嵌

判じ物(はんじもの)の謎解き

日本の文化は「判じ物」が多い。頭をひねらせるものともいう。文字や絵にある意味をつけて判じさせる謎解(なぞと)きに面白みがある。お茶席や香席でも、「ちなんで」をどう取り合わせ全体を構成するかに妙味を感じる。和食しかり。

はるか昔、母に手をひかれて日暮里のお稽古場に通ったことを思い出す。五條流という、そのころは小さな流派の五條珠緒先生に教えていただいた。満開の桜の舞台で踊る「娘道成寺」は、難しくて子供にはとても踊りきれるものではなく、「汐汲(しおくみ)」とともにあこがれの演目であった。

私はバレエを習いたかったのに・・・。中学になると通いきれずにやめてしまったが、今では歌舞伎の中でも、踊りの舞台を見るのは楽しい。



写真1:扇子の柄、三角は蛇の鱗を表し、桜の花弁とともに配されている。

写真2:刀のこしらえ、柄頭(つかがしら)。桜と梵鐘の図案である。

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