年末の30日、ミッドタウンで知人とランチ中に急にアトリエの椅子の張り替えを思い立つ。渋谷のTOAが近いのではと教えて貰い、今日までやっているらしいということで、六本木から渋谷行きの都バスに乗って布地を買いに行った。
2020年のオリンピックを目標に、どんどん新しく街を作っているのだろうか。人はすごくたくさんいるし、ものすごい勢いで変わっていく渋谷に、
「スローな私はついていけない!」
とお上(のぼ)りさん状態である。
昨年7月にアトリエを六本木に移転した折りに、椅子の張替えをしようと思いながら慌ただしさに取り紛れ、伸ばし伸ばしにしてきたものである。
「なに、始めてしまえば1時間もあればそれなりにできるはず。」それより生地のテクスチャーによって仕上がりがだいぶ違うので、選ぶ段階で成否が決まる。
渋谷駅から徒歩5分、「TOA」はどことなく昭和な雰囲気の生地屋さん。こじんまりしているが生地は積み重ねられてなかなか見ごたえがある。
無難に茶系の無地でちょっと粗目の素材をいくつかピックアップして、
「椅子の張替えをしたいのですが、これとかこれとか、適してます?」などとお店の人に聞くと、親切にアドバイスしてくれてとても感じがいい。
「座面40センチ角で全部で8脚で何メートル必要か」と相談、「幅150センチなので、150センチあれば足りますね」と教えてもらうが、万が一失敗したりして、足りなくまた来なおすのも億劫(おっくう)なので、多めに買う。
椅子の座面は外れるので、生地でくるんで、後ろはタッカー(大きなホチキスのような道具)でとめる。
選んだのは淡いベージュのウール。椅子にウールはあまり使わないそうだけど、ストレッチがあるのできれいに巻けそうである。
ざっくりと切って、バンバンとタッカーで止めていく。
椅子の裏の、この三角の部分からネジを抜けば、枠(わく)に固定してある座面が外れる。
張替えの前、ぐらぐらして分解してしまいそうだった椅子がひとつあったのだが、それはこのネジが抜けていたからだというのが裏返して判明。
張替え後、似たようなネジを探して本体と座面をとめなおしたら、ぐらつきがおさまった。
その中に、番匠の息子が画いた設計図案の、吹き抜け構造の欠点を指摘する場面があった。
七層にもなる天主(てんしゅ)の強度の問題(と火災のリスク)である。床がはられていることによって、建物の構造の強度が高まると言うことを、模型を作って証明するシーンを読んだばかり。
理屈ではわかって読んでいたが、このたび、この椅子と座面の固定という、じつに卑近な例で実証できたのである。
と、いうことで張りなおした椅子がこちら。
きれいにはなったけど、みんな教えるまで張替えに気がつかないほど、前とほぼ似た色だ。
細かく見たらいろいろと「難あり」だけど、その程度にざっくり見られている分には大丈夫そうだと安心したのであった。
アトリエを少しずつ自らの手で直していくというのが、なかなか楽しいものである。