パルファン サトリの香り紀行

調香師が写真でつづる photo essay

りんごの香り

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りんごの香りは、誰もが好きな匂い。

 

毎年、この季節になると、生徒さんのお母様から地元青森のりんごジュースを送っていただく。しぼりたてで本当においしく、楽しみにしている。

去年、おととしは少しすっぱかったが、特に今年はとても甘くて濃い。ワインと同じで、こういうものは年によって味が違うのは当然だ。

 

 

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さいころからなじんだ、りんごのような果物の懐かしい思い出は、みなひとつやふたつはあると思う。
りんごを剥いた時、かじった時、はじける香りはいつもそのことを思い起こさせる。

 

幼稚園の頃、よく自家中毒になった。食べ物がのどを通らないときなど、りんごのすりおろしを匙で食べさせてもらった。みかんじゃダメ、おなかのおさまりがいいのは、りんごなのだ。

 

ずっとずっと昔、20年も前、父が病院で亡くなった時のことだ。もう何も食べることができなくなって、数日前から口もきけなくなり、点滴だけで生きていた。

深夜、眠れない中、ベッドの中でふるえる字で私に頼んだ。
『 あすのあさ、りんごをかじってください、ニオヒがかぎたいカラ』 

 

夜が明けて一番でりんごを買いに行き、父の顔のそばでいきおいよく果実を噛んだ。
朝のカーテン越しに弾ける香りのミスト。

父の目じりから一粒がこぼれて落ちた。初めてみる涙だった。

 

 

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