これは、ストーリを楽しむと言うよりも、詩的な言葉を味わうような物語。
13世紀に書かれた、有名な恋愛作法の本だとか。
読む前は恋愛小説なのかと思ったが、擬人化された言葉が登場し、「寓意的な」手法で恋愛論を語る、といった変わった本である。
主人公は「詩人」と「薔薇」。
「愛の神」がはなった矢に射られ、一目垣間見た「薔薇」を恋した「詩人」が、たくさんの番人に妨げられながら、悶々としながら薔薇を慕う姿を綴る。
番人は、「嫉妬」「歓待」「理性」「卑劣」「背信」「貪婪」「「嫉妬」「典雅」「悦楽」といった言葉が擬人化され、おびただしく登場し、それぞれの役割を演じる。
例えば「純潔」は薔薇園の女主人だが、蕾を狙う色々な人々に襲われるので、「羞知」「拒絶」「悪口」の3人に守護してもらう。
何者も、羞知心から、または悪口を言われ、ひどい拒絶をされては、薔薇を奪うことはできない。
一方で、詩人の薔薇への恋を助勢する者たちもいて、
それは、退屈なようでもあり、読むことをやめられないまま、最後まで読んでしまうと言うような内容だ。
これを読んでいて、まったく内容が違う本ながらも、夏目漱石の「三四郎」を思い出してしまったのはなぜだろう?
今は、ストーリの起伏が激しく早く、初めから最後まで息をもつかせぬ展開でなければ、楽しめないような時代だが、こんな風に、テンポが遅いのもたまにはよいのかもしれない。
南雲堂フェニックス
中世英語版 薔薇物語 ジェフリーチョーサー 瀬谷幸男