伝染病で人が死に絶えた家。
誰はばかることなく中に入って荒らす四人の泥棒たちがいた。
なぜ彼らは病気に感染しなかったのか。
中世ヨーロッパでは繰返しペスト(黒死病)が流行し、多数の死者が出た。
まだ病気の原因が目に見えない細菌やウィルスだとわからなかった時代のことである。
捕縛され、どうやって無事に盗み出すことができたのかを取り調べたところ、泥棒たちは数種類のハーブを漬けこんだビネガーを体に塗っていたことを白状した。
ペスト菌を媒介するのはノミであるから、殺菌作用、防虫作用のある酢を体に塗るのは理にかなっている。
今でいう虫ガードのようなものだろう。
この四人の泥棒の酢の処方には、セージ、タイム、ラベンダー、ローズマリ-を主として、ガーリック、ルー(ヘンルーダ)、ミント、ワームウッド(にがよもぎ)などが入っていたとされる。
今でも南仏地方では、このVinaigre des quatre voleursという名のついた酢が売られているらしい。
ラベンダーは今やおなじみのハーブだから、目にした人は多いだろう。
バジル、ローズマリー、ラベンダー、タイム、セージ、ミントなど、シソ科のハーブは多い。
シソ科の小さな花はみな下唇が長く、上向きの蕊が可愛い。
タイム。
甘い、オイリーな匂いがする。
灯油ストーブなんて今どきないだろうけど、そんな匂いだ。
ルー(rue)はミカン科の植物で、ヘンルーダともいう。
やや苦みのある青臭い、個性的な匂いがする。
ミカン科なので青虫がつく。
香料のステモン(stemon)をかぐといつもこのルーを思い出す。