パルファン サトリの香り紀行

調香師が写真でつづる photo essay

懐かしのタイプライター typewriter

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「赤いバケツのオリベッティ」そんなキャッチフレーズが蘇(よみがえ)る。タイプライターの形の、これはロール型のメモ帳入れなのである。


アトリエの近く、「六本木AXIS(アクシス)ビル」の1、2階には素敵な輸入インテリア雑貨のお店がある。そこで見つけて、迷わず買ってしまった。少し前に知人から、オリベッティのタイプライターの話題が出たこともあったからだろう。

思い起こせば数十年前、私がまだ高校生の頃である。「ヴァレンタイン」というタイプライターを持っていた。私が父にねだったものか、兄のおさがりなのか、たまたま家にあったものかは忘れてしまった。

赤い容器にすっぽりと収まる小ぶりのタイプライターは、スタイリッシュでインテリジェンスを感じさせる道具であった。(あくまでも道具が感じさせるだけで、自分がそうだといっているわけではない)


ちょうど友達がセクレタリースクールでタイプライターを習っていたので、「終わった分の教科書を貸して~」と頼んで、家でひとりで練習をした。

ピアノのように指をキーにおいて、最初は人差し指で「F」ばっかり連打するところから始めたように思う。次は「TH」とか二文字などを繰り返し、英単語、だんだんとキーを見ないで打てるようになるまで、指で覚える。

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少し打てるようになった時、思いついて英語の教科書を一冊、丸写ししてみた。

当時はルーズリーフ型のファイルなどなかったので、スパイラルノートの、端を閉じてある、らせん状の針金部分をくるくると外し、紙をばらしてから一枚づつタイプライターで打った。

全部タイプし終わったところで、またらせんを元に戻して製本する。
左のページに教科書の英文をうち、右のページに日本語の訳や単語を書き込むようにしたのだ!

「思いつく→取り掛かる→達成する」パターンの成功例であった。「さとり、よくやった」と褒めてやりたい。




これはタイピングのかなりの練習になった。しかしそれで英語力が上がったかというと、目で見たとおりに手を動かすだけの、文字通り機械的な作業だったので、成績にはあまり役には立たなかったようである。

そして、なんのためにそんなことをしたのかを、今、思いだした。

当時つきあっていた同級生に、この手作りの英語アンチョコをプレゼントしたのだった!

吾ながらよくやる(;'∀')~。

ノートをもらった彼は「どうやって作ったの~」と本当にびっくりしていた。しかし彼もその後、それによって英語の成績が上がったと聞いた記憶はない。

「苦労した割に成果が少ない」というパターンの一例であった。




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話がそれた。
写真のタイプライターは紙にプリントされているだけであるが、本物のタイプライターはもちろん違う。

手前のキーを押すと、連動するアームの先についた金属製の活版文字が起きて、ピアノの弦を叩くハンマーのように、紙の上に振り下ろされる。

その活字と紙の間には、インクリボンが横に通っている。叩くことによって文字が紙にプリントされる仕組みである。同時に一文字(ひともじ)横に移動する。一行打ち終わるころ「チーン」という音がして、改行してまた先頭に戻す、を繰り返す。

「カタカタカタカタ...チーン、シャーッ!」と、古い映画に出てくる美人秘書のような気分になりたくて、めちゃくちゃに早く打って音だけ楽しんだこともある。

しかしあまり早く打ちすぎると、アームが戻る前に次のアームがリボンの上で重なり合って固まってしまい、ほぐすために手を止めなければならない。

かえって時間を食ってしまうので、結局ゆっくり打つのが早かったりする。


ワープロと違いキーを打つのは割に力が必要で、特に「Z」は小指なのでどうしても印字が薄くなってしまう。意識して強く叩かねばならぬ。

打ちミスのときはホワイトで修正するが、のちに白いインクの乗ったカーボン紙のようなものが登場して、同じ文字をこの白いインクの紙で打つと、間違えた文字がきれいに消える。

おお、画期的!だと感心した。

そんなのも懐かしい思い出である。

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そんなわけで、すでにブラインドで打てたのでワープロは早めに使い始めたし、その後のパソコンへの移行も、比較的スムーズであった。

私が使った最初のワープロ富士通の「OASYS(オアシス)」だったか、NECの文豪だったか。キーボードの配列はほぼ同じだったと思う。ローマ字で入力すれば漢字に変換できるというのは革命的なことだった。

そしてタイプライターに比べてキータッチに力を入れる必要がないのも楽ちん。


ウインドウズ95が出たころ、「その年齢にしてはかなりPCが使えるね~」と、若者に感心されたものだが、キャリアが違うのである。(ちょっとだけ自慢)



ワープロ以降の色々積もる話もあるのだが、今回はタイプライターまで。何かの機会にふと思い出すと、芋づる式に記憶がよみがえり、またしばらくするとどこかへ消えてしまう。

そこで備忘録として書き留めておくものである。





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