「菩提樹」と言えば、お釈迦さまがさとりを開いたということで有名だが、それはインド菩提樹でこの花とは別物。これは、セイヨウシナノキともいう。
シューベルトの「冬の旅」の中での「菩提樹」(Der Lindenbaum)がこちら。
泉にそいて 繁る菩提樹
慕いゆきては うまし夢みつ
幹には彫(え)りぬ 愛の言葉
うれし悲しに 訪いしそのかげ
(Wilhelm Mueller作詞、近藤朔風訳詞 一部抜粋)
若者のせつない思い出と、ざわめく胸の内が語られている。
やさしい黄緑の葉はハートの形で、花は地味だけれど鈴なりに咲く。パリは街中にたくさんのリンデンが植えられていて、テュルリー公園はずうっと並木道になっている。カフェにいても歩いていても、どこかしこ、とにかく甘い匂いでくらくらする。
それがまた、悪くないのだ。というより、すっごくいい。爽やかな初夏の時期をひととき謳歌する花。
インドだけでなく、中国原産のシナノキもあって、ややこしい。昔は植物学も発達していなかったので、リンデンだけでなく、ちょっと見が似ていると間違えることも多かったみたい。
私の好きな呼び方はティリア。舌の先で小さく弾けるような音がなんとも可愛いのだ。
写真:まだ、蕾のティリア
▶ 花事典 セイヨウボダイジュ :シナノキ科 シナノキ属 学名:tilia europaea