パルファン サトリの香り紀行

調香師が写真でつづる photo essay

赤い蝋燭と人魚 The Mermaid and the Red Candles

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和蝋燭(ろうそく)は、洋ろうそくに比べてすすが少なく長時間持つという。

櫨(はぜ)の木の実から採れる蝋(ろう)で作られる。
櫨(はぜ)はウルシ科の植物で、古くは暖かい西日本で栽培され全国に出荷された。

蝋は漆(うるし)の実からもとれるが、櫨のほうが大きく収穫量が多い。


寒い北の国、米沢の上杉鷹山(うえすぎようざん)は漆蝋(うるしろう)で産業を興し藩財政を立て直そうとしたが、南の櫨の蝋が流通したことによりうまくいかなかった。

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小川未明の「赤い蝋燭と人魚」は小さい時によく読んだ有名な童話である。
短いがとても悲しい、暗い話。

舞台は日本海に面した北のある漁村がモデルになっているという。

 

老人夫婦に拾われた娘は人魚の姿をしていた。娘はお宮に備える蝋燭に絵付けをして生計を支える。やがて蝋燭の海難除けの効果が評判になると、娘の美しさと珍しさを狙って人買いがやってくる。 人魚の娘は檻に入れられ連れ去られてしまう。

 

その後の結末の凄惨さより怖かったのは、あれほど神様からの授かり物と大切にしていた娘なのに、お金のために見世物に売り渡してしまう、鬼のような老夫婦の変貌ぶり。

信仰心が篤(あつ)く善良な人間も、欲の前にはこんなに弱いものなのか。
人は、心に鬼を飼っている。



 

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一心に蝋燭に絵を描く娘のひたむきさが一層哀れである。


赤に塗りつぶされた最後の蝋燭はもう人々を守ってはくれない。

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