パルファン サトリの香り紀行

調香師が写真でつづる photo essay

昭和の夏 Showa

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それは夏の暑い日、小学校から帰宅する電車内のできごとである。

吉祥寺と渋谷を結ぶ、私鉄・井の頭線のその時間はまだ混んでおらず、立つ人もまばら。古い車両の天井には、扇風機がハタハタと回っていた。

何度目かの駅で、ドアから白い蝶がふわりと迷い込んできた。

座っている人の前を漂い、人々の視線がごく自然に蝶を追う。
『はやく開いている窓から逃げたらいいのに・・・』


やがて天井の方へ舞った蝶は、音もなく扇風機の後ろから吸い込まれ、散った。

あまりの成り行きに、みな、黙って見ていた。
ただ見開いた眼が、哀しみに陰った。


しばらくして、大人の女の人が立ち、蝶のかけらをひろい集め、ハンカチに包み、また座った。


みな黙って、何事もなかったのように黙っていた。




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