母と割烹で夕食後、同乗させてもらったタクシーから有楽町で落としてもらった。
駅の改札に向かうと、ガードに沿った通路に簡素なつくりの可愛いお店がならんでいる。
クリスマスっぽい雑貨、靴下のお店など、ぱあっと明るく楽しい雰囲気の小路である。
足早に通り過ぎようとして小さなお花屋さんのバラに目がとまった。
ごく淡い、白い花弁の中心は、ピンクにミルクティーを溶かしたような色。
繊細なステム(茎)の上ににふんわりと咲き、7-8本が束になっている。
ダリア、菊、ダイヤモンドリリー、どの花も素敵に飾ってあるのだが、そのバラが特に魅力的だ。
『へえー。。。』
きれいだな・・・そう思いつつ5メートルほど足を進めてから、後ろ髪をひかれる思い、というやつだろう。
やはりユーターンして、バラの前に立ち戻り香りを吸う。
ほおお。。。すっきりと爽やかなグリーンと甘いローズ香がバランスよく合って、強すぎずしかし微香というわけでもない。
このバラならかくあるべしと思うような、やさしげな姿とぴったりとマッチした香りである。
お店の若い女性に尋ねてみた。
「なんというバラですか?」
「サーシャです」
サーシャは、アレクサンドル(アレクサンドラ)の愛称。
『サーシャ・・・、ロシアの女帝エカテリーナ2世の若い愛人の名前だ』
物語の彼は知的で繊細な、そして忠実なしもべ。
ふとそんなことを思い出し、内心にが笑いする。
電車に乗ることを考えて一瞬躊躇するが、熱燗の勢いもあって?やはり買うことにした。
1本だけ包んでもらう。
「ご自宅用ですか?」
「はい、一番下の葉を落として、この辺で切ってもらえます?」
用意してもらっている間、他のベビーピンクのバラや、アプリコットイエローのバラの香りもかいでみる。
しかし、今日ここにあるバラの中では、このバラが一番好きだ。
思いのほか混んでいる車内、たまたま座ることができた。
膝の上に立ててもった花の包みの中から、ときおりふわり、ふわりと香りが上がってくる。
やはり買ってよかった。
アトリエの透明なガラス瓶に1輪、すっきりと挿してあるサーシャを思い浮かべて心が明るくなる。
花を食べるためでなく、女性に贈るために摘むようになった時から、人類(男)は獣(けもの)からヒトになったという。