毎年、12月から正月明けてしばらく、リビングのカーテンには海外からのたくさんのクリスマスカードがピンでとめられる。
届いた順に下げられて、カーテンを埋めていくのだ。
小さい頃はどこの家もそうするものだと思っていたが、そうでもないらしい。
母の年中行事である。
今年一月のある日、母が私に嬉しそうに一通のクリスマスカードを見せてくれた。
アメリカの男性と結婚した大学の同窓生から、昨日届いたばかりだという。
学生時代は親友というほどではなかったが、卒業してお互い結婚した後、たまに会ったり手紙のやりとりをして60年、ごく淡く付き合っていたそうである。
その方は御主人を亡くされた後、今はハワイのホームで暮らしている。
5年前に病気で寝付いてしまい、つらい闘病の手紙をアメリカから母に送ってきたのだった。
そこで母は「大変だ」とばかりに、日頃自分がしている「呼吸法をやったらいい」とやり方を手紙で教えたのだが「苦しくて息ができないからそんなこと無理」という悲観的な返事。
それではと、さらにいろんな呼吸法の本を送ったり「一秒でいいから吸って吐いて、できたら二秒、三秒と延ばしていけばいい」「自分に合ったやりかたでいい」など、何通も手紙を書いたという。
しかし、しばらく音信なかったので「どうしたかな?」と思っていたところ、久しぶりにクリスマスカードが届いたというわけである。
二つ折りのカードには、母を気遣う言葉のあとに、その方の近況がぎっしり書いてあった。
言葉はそのままで一部抜粋させていただく。
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貴方にいわれた呼吸の仕方なかなかわからなかったのが或る日突然出来るようになりました。何でも良い事はやってみるものですね。
「ありがとう」も良い事だと思います。私もここに移ってから、ここが直れば又あちらと云う様にどこかしら身体のどこかが悪くなりましたが今では文句を云わずこんな生活をさせてもらって神やまわりの人達に感謝しなければと思うようになりましたら元気になってきました。
感謝するとまわりの人も好く見え生活も楽しくなります。私もありがとうと云う生活をやって見ます。又良い事があったら教へて下さいね。ここのリタイアメントホームは90才に近い人や90才以上の人が150人の内三分の二位います。私なんか若い方です。来年も感謝しつつ「ありがとう」をやってみます。
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私はそこに至る二人のやりとりの経緯をよくは知らないが、カードだけ読んでもとても嬉しくなった。感動しちゃった。。。
昔の人だから旧カナづかいだし、危急な内容でも電話ではなくて文のやりとりということろがのんびり大正な感じだ。
母は「最初の手紙では今にもあぶない、という様子だったのよ。ね、元気になったって書いてあるでしょ、本当によかったわ」と喜んでいる。
そのカードの文面から思うに、母は「感謝について」も伝えたのだと思う。
母の同級生だから85才。いくつになっても人は感謝できたら幸せになれる。
まだまだ、自分は未熟者と思う。
幸せに歳をとるために、べんきょうべんきょう。