あるところに、国一番の大富豪がおりました。
贅沢をして暮らしていましたが、いつも家族がいがみ合っていて、心の休まる暇がありません。毎日くらい気持ちで過ごしておりました。
ここのご主人は生まれたときからお金持ちなので、貧乏のつらさを知りません。
裕福なのが当たり前なのですから、お金があってもちっともうれしくありませんでした。
それでも、「なんといってもお金の苦労がないのは恵まれているよ」と出入りの商人は思っていました。
この商人は体が丈夫でしたので、家族を地方に残して、いろんな国へでかけ珍しいものを仕入れては、城下に売りに来ていました。
彼は生まれつき病気をしたことがないので、健康のありがたさを知りません。
いつもあくせく働く苦労を嘆いていました。
「とにかく健康だということはかけがえのない財産だよ」
と商人仲間にさとされているのでした。
商人には大変美しい一人娘がいました。
年頃の娘たちはみな、「あんな風にきれいだったらどんなにいいだろう。」
とうらやんでいましたが、娘にとっては、小さいころから容姿をほめられちやほやされているので、それが当然でした。
「こんな田舎に埋もれていないで、都へ出て華やかに暮らしたいものだわ」
そうため息をつくのでした。
みなそれぞれに恵まれており、それぞれに苦しかったのです。
海岸へりの粗末な小屋に、貧しく病気がちな老人がいました。
朽ちた木の椅子に腰かけてうたたねをしていると、夢の中に大天使が来て
「何か一つだけ望みの物をあげよう。若さでも、財宝でも、名声でも」
とお告げになりました。
老人は少し考えて、
「では、『自分はなんて幸せなんだろう』といつも感じれる心だけをください。」
と言い、その願いはかなえられたのでした。
written by satori osawa
写真4枚目 パリ・ロダン美術館
写真5枚目 南仏 サンポール・デュ・バンスの教会 壁画