桜吹雪とまでいかなくても、はらはらと散る桜の花びらを撮りたくて、ずっとカメラを構えていたのだが。
シャッターを押すと、すでに花びらは画面から消えていて、いっこうに写らない。
近くを通る花びらは早すぎるし、遠くはピントが合わないし、諦めてかけていた。
すると、遠くでおばさまたち(私もたいがいおばさまだが)がきゃっきゃと花を投げあっているのが見えた。
カメラ片手に、片側の手で帽子を押さえて走ってそばに行く。
「わあー、私も撮らせて下さい」
「もう一回投げてー」
やっと撮れた花吹雪だけど、いくらなんでも花が多すぎて、かなり不自然だ。
「ほーら、こんなにたくさんの花びらがあるのよー」
嬉しそうに、教えて下さる。
さくらって、こんなにみんなをフレンドリーにしてくれるんだな。
童心に帰って、自分でも撒いてみる。
数センチにも積った桜の花びら。
まだ、きれいな色のままだ。
これを左手に握って、ばあっと投げて、それで急いで撮ったのであった。
新宿御苑の平日の朝は、日曜とは別の公園かと思うほど人が少ない。
「おだんご~ おいしいおいわけだんごはいかがですか~」
まだ人気のない新宿御苑で、よく通る声が響いてくる。
最初通りかかった時もいい声だなあと思っていたが、帰りしなまた近くに寄ったら、だれもいないのにまだお客さんを呼んでいる。
明るい元気いっぱいのおじょうさん。
このまま着物を着せて、時代劇の茶店に立たせたい。
さくらの時期の日曜と火曜日だけここにいるそうだ。
気持ちのいい声に感心して、つい買ってしまった。
アトリエの朝のおやつにしよう。