キンモクセイは爽やかな秋晴れの日にふさわしい花だ。
残暑もようやく終わり、ひと心地ついたころに本格的な秋の訪れを知らせる。
開花時期は短くても、みんなの記憶に残る花木のひとつだろう。
季節を告げる「香る花」の代表は「春の沈丁花(じんちょうげ)、秋の金木犀(きんもくせい)」と私は思っている。花より先に、香りで人にそのありかを知らせる。
小さな十字のオレンジの花は、可愛らしいが深い緑の葉に隠れるようで咲くまでは気がつかない。沈丁花もやはり、重い常緑の葉が地味な印象だ。
金木犀からは天然香料も採られる。天然香料は咲いている花の匂いとは違う。爽やかな部分はもっと凝縮され、コクのある甘さとむしろアニマル感がある。
そのため、咲いている花の香りを再現するには、別の香料を組み合わせて調合香料をつくる。
金木犀の中心的な香りは「βヨノン」と「γデカラクトン」である。(もちろん他にも100に及ぶ成分が入っているが)
「βヨノン」は、粉っぽくウッディで、それ自体を一品で嗅ぐと、拡散性があるように思えないが、キンモクセイの香りの中にあっては、この「β―ヨノン」が遠くまで香りを運ぶ働きをする。
「 γデカラクトン」はフルーティな部分を受け持っている。甘い果実感は桃の香りにも似ているが、ピーチを作るには「γウンデカラクトン」を使う。
一口にフルーティと言っても系統があり、フローラルといってもグループがある。
キンモクセイやピーチ系、アップルの香りはジャスミンやミュゲ(スズラン)と相性がよい。
一方、ローズはライチと合うが、ピーチ系とは難しい。
固定概念にとらわれてはクリエイティブなものは作れないが、セオリーは知らないと回り道をする。
どんな世界も同じことだと思うけれども。