パルファン サトリの香り紀行

調香師が写真でつづる photo essay

レモン(檸檬)の木

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レモンには何か「舶来」のイメージがある。

 

 

 

オレンジやグレープフルーツも輸入品だが、レモンにはちょっと違う、特別感があった。形も可愛いし、子供のころは絵を描いたり、レモン柄のシールや文房具を集めたりした。

ランドセルをしょって学校の行き帰りに、夏みかんのなる家はよく見たけれど、中学、高校と長じるにつれ「檸檬の木」がある庭に憧れを抱くようになった。(レモンじゃなくて、檸檬の字がふさわしい)

なんか、豊かで幸せな家庭のイメージがある。それに昔は、ファーストキスはレモンの味などと言ったものだ。レモンに悪感情を持つ大人(年寄り)は少ないんじゃないだろうか。

紅茶はレモンと決まっていて、それがハイカラな時代だった。お友達の家に行くと、お母様が輪切りのレモンを添えて出してくれたりした。本当は渋くて、子供心にはおいしくはなかったけど。

 

大人になってから、たまたま園芸店で見つけ、30センチくらいの鉢植えを買った。裏がえんじ色で、中が白い花はいい匂いがした。

初めの年にはちいさな実がひとつ。でも、いつ収穫したらいいか、もっと大きくなるのかな?と思っているうちに、なんだかしなびてきてしまう。あわてて採ったが、今度は使うのが惜しく、手にとって眺めているうちに食べる気が失せた。

そこで、地植えにしたほうが大きく育つと思い、鉢をおろしてみた。

大切なレモンの木に青虫がつくので、同じミカン科のルー(ヘンルーダ)の鉢を隣において、せっせと引っ越しをさせ、いずれアゲハとレモンの両方を楽しもうと思ったのだが、或る夕方、雀が木の周りで騒いでいると思ったら青虫はいなくなってしまった。

背を越すくらいに大きく育てて、レモンがたわわに実るのを期待したのだが、もともと暖かい気候が好きな植物、そううまくはいかないようだ。日当たりと寒さがうまくコントロールできず、他の木や植物に覆われて、そのうちフェードアウトしてしまった。。。そんなわけで、「檸檬のある家」はいまだに憧れだ。

 

一昨年の夏に、メルボルン郊外にある、根付のアーティスト(英国人)のアトリエ兼ご自宅に行った。小さな中庭には、なぜかつくばいがあって、葡萄棚の下には白いテーブルと椅子が、そして、2メートルくらいのレモンの木には大粒の実がたくさん下がっていた。メルボルンの冬も寒いのに、やはり日当たりと大地のめぐみだろうか。

『ああっ、これよ、これ!』理想郷を前にして感涙。『私も、こんなカントリーハウス欲しいよ~!ピョンピョン!』という心境。

 

レモンを食べたいわけじゃない。酸っぱいし。でも、なんか、象徴として持っていたい木だ。

 

▶ 植物事典 レモン ミカン科ミカン属

 

 

 

 

 

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