かんきつ類の香りはなじみ深く、爽やかで嗜好性が高い。日本人には特に好まれる香調だ。
オレンジ、レモン、グレープフルーツ、ライム、マンダリン、ベルガモットなど、香水のトップノートによくつかわれる香料である。
<香料について>
生の果皮をよく見ると、ちいさい球状のつぶがびっしり見える。精油と呼ばれる香気成分をためる袋(油胞)である。
小学生の頃に、実験した人もいるかもしれない。みかんの果皮をろうそくの火に近づけて指でぎゅっと押しつぶすと、汁がとんでジジッと燃える。これが水分ではなく、揮発性、可燃性の液体だということがわかる。
同じようにオレンジやレモンなどのかんきつ類も、果皮に油胞があり、これを押しつぶして(圧搾)香料を採る。大量に採油するときは機械で全果を絞り、精油とジュースに分離する。
柑橘類の香料には、シトラールやリモネンなどが含まれ、共通したさわやかさや甘酸っぱさがある。しかし、その割合の違いと、各々の特徴的な香気成分によって、これはベルガモットであるとか、ライムであるとかが判別できる。
時には、そのキャラクターを活かし、ネガティブな部分を消すために組み合わせたりする。
生のオレンジやグレープフルーツは、果物売り場に置いてあるが、フレグランスの世界では、柑橘類の香りはフルーティノートと呼ばず、シトラスノートという。
フルーティノートはピーチやアップルなどの香りをさす。
<国民性と香り>
和食にはユズやカボス、スダチなどが効果的に使われている。そういう食文化があるせいか、日本の人はかんきつ類の匂いの違いに敏感なようだ。
日本には歴史的に浅い、ハーバルアロマティークな香りに対する感度に比べると、シトラスを測る「めもり」は10倍も細かい様に思う。
イタリアではかんきつ類が多く栽培され、香料の産地であり、ポピュラーな果実でもあるので、やはりシトラスタイプの香水は好まれている。スペインでもそうらしい。オレンジの花の香りは、日本人が想う桜の花のように愛されているとも聞いた。
ディオールのオーソバージュはヨーロッパで成功したシトラス系の香水の一つだ。しかし、アメリカではあまり受けなかった。アメリカではもっと、インパクトのあるわかりやすい香りが好まれるようだ。
国によって香りの好みの傾向が異なるのは、個人の経験以上に、その国の歴史文化に依存する。