パルファン サトリの香り紀行

調香師が写真でつづる photo essay

椿姫(つばきひめ)、五弁(ごべん)の椿

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花は蕊(しべ)がきれい。この椿も、金の冠(かんむり)の様だ。

椿は日本を代表する花で古くから愛され、万葉集でもいくつか歌われている。

 

わが門(かど)の片山椿まこと汝(なれ)、わが手触れなな土に落ちもかも(物部廣足)

私の家の椿はぽとりと、「私が触れないのに落ちてしまうのか」と憂いている。
留守の間に、妻が他の男の手に落ちるのではと心配する、防人の夫の歌だ。

 

椿は18世紀に日本に来た宣教師カメリアによって祖国に持ち帰られ、19世紀にはヨーロッパで大ブームになった。デュマ・フィスが「椿姫(つばきひめ)」を書き、ヴェルディが歌劇にしたのは有名だ。

娘のころ、「姫」のつくタイトルに惹かれてこの小説を手に取ったが、大人向けの話でびっくりした。

娼婦の純愛、しかも予想外の悲劇は、10代には理解不能。成人後、古本屋で見つけてもう一度読んだ時、あー、なるほどなーと思ったものだ。

椿姫は客との出会いの場である劇場の自分の席に、「21日間は白い椿を、1週間は赤い椿を飾る」。白の日はお付き合いしてもいいけど、赤の日はお休みよ、という意味。主人公は高級娼婦だから。高級だから街角に立ったりはしない。そして、あってはならないことに、男を本当に愛してしまう。さらにお決まりの悲しい結末。

貴族の男はいつも女々しくてずるく、卑し女(め)はけなげで気高い。これはヨーロッパ文学でよく出てくるパターンだ。

 

もうひとつ、心に残る椿の物語がある。

日本映画、「五弁の椿」に出てくる若い頃の岩下志摩さんは、本当にきれいだった。美人の中の美人だと思う。

北山杉の山に、雪がサーっと冷たく降り注ぐシーンが心に残る。純情な少女が、事件を機に復讐鬼になっていく。暗く、哀しく、芯の強い美しさで、日本の椿のイメージにぴったりの映画だと思う。

 

考えるとあんまり、幸福感のある話はないかも。花は、可憐、妖艶と言うより、凄惨な美しさ。

 

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