パルファン サトリの香り紀行

調香師が写真でつづる photo essay

ワクワクしながら香りをつくろう

090401教材.jpgワクワクしながら香りを作ろう!

私がびっくりさせられるのは、大学でケミカルを習ったわけでもなく、香料会社で修行したこともない、ごく一般の香り好きの生徒たちの作品の中にも、すばらしいアイデアやセンスを発見することである。


 

 

子供たちははじめ、6色のクレヨンやサインペンや色鉛筆などを使って、何も教えなくても(むしろ余計なことは教えないほうかよい)自由に絵を描く。そこには、天才のひらめきがある。

やがて、彼らは対象をよく観察するようになり、使用する色彩が増え、水彩や油彩など無段階に色を作り表現を広げていくが、それは技術の習得につれてであり、はじめからそうであったわけではない。


いままで、調香の世界が何か秘密のベールの向こうで行われ、一般の人が参加できなかったのも、ひとえに、導入時にクレヨンやサインペンに当たるような道具、素材が手に入りにくかったからであろう。

 

 

調香に使われる単品香料と呼ばれる素材は、トン~キログラム単位で取引され、それを1000種類もそろえるとなると、趣味でちょっとというわけにはいかない。

また、あたかも特別な能力(犬のように鼻が良いとか)が必要なように思われているようだが、そんなことはない。嗅覚は訓練によって鍛えられる。プロになるには毎日のトレーニングは欠かせないが、それ以上に豊かな感性を養うことが大切なのである。


いままでの教室の経験から、その興味と進度に適切な香料素材を提供すれば、生徒は早い段階で自分のイメージする香りを作ることができる。

そして、鼻が肥えてきて観賞力がつき、評価能力が伸びるにつれて、より良い作品、自分が満足できる作品を作りたい欲求が出てくる。

 

 

それは、あるときは緻密さを要求し、あるときは大胆な作品を作りたくなるのである。そのときに、やはり成長に応じた技術を指導すれば、その生徒の作品はさらに飛躍的によくなるだろう。

 

 

技術が先にあるのではない。子供たちが、知識ではなくその感性できれいだと思う花を、感動したシーンを、興味深い動物を、無心に描くことから始まるように、作りたい香りをワクワクしながらイメージすることがまず第一にある。

 

それを、この香料はこの組み合わせがあうとか、香料価格がいくらなのかとかを先に考えてしまうと、枠が枷られてしまう。クリエイティブな人材育成のためには、ケミカルや技術を重視しすぎると障害になることもあるのだ。

ほぼ全員が、小さいころ絵を描いただろう。地面の上に、壁に、ノートの切れ端に。

そのなかで、大きくなっても絵を描き続ける人はどんどん減っていく。世界中のあまたある美大から毎年何万人も卒業しても、職業に結び付けられる人はさらに少ない。また、純粋に画家として食べていける人はどのくらいいるだろう?

 

100年後に評価される絵を描く人は砂丘でダイヤモンドを探すくらい難しい。それでも、絵画の世界の底辺はものすごく広いので、頂点も高いのである。

 

もし、調香がそれ以前の香り作りも入れて、よりたくさんの人にそのチャンスがあれば、きっと埋もれている才能が必ず発掘されるだろう。

そして、今ある香りの業界に、新しい世界が生まれるに違いないと期待するのである。

 

 

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