小さな、ビロードのような五弁の花。
紫色、または小豆色の小さな花が密集して咲き、香りがよいので香水草とも呼ばれている。
夏目漱石の小説「三四郎」のなかで、美禰子が白いハンカチにつけていた香水の名がヘリオトロープ。日本に輸入された初期の香水のひとつと言われている。
ある日町でばったり出逢った美禰子は、店で三四郎にこの香水「ヘリオトロープ」を選んでもらう。
香水のエピソードは、恋愛がはじまる淡い予感。
しかしその後、ゆっくりとした展開の中で、人と人の縁のつながりや、三四郎と美禰子のお互いの気持ちにすれ違いがあり、実らぬ恋となってしまう。
物語の最後、三四郎との別れをほのめかせるシーンで、この香りが再び効果的に使われている。
「手帛(ハンケチ)が三四郎の顔の前にきた。鋭い香がぷんとする。『ヘリオトロープ』と女が静かに云った。三四郎は思わず顔を後へ引いた。ヘリオトロープの壜。四丁目の夕暮。迷羊(ストレイシープ)迷羊(ストレイシープ)。空には高い日が明かに懸る。」ー三四郎から