春の木漏れ日が射す、若草の緑。
明るいところ、影のところ、白の花に、紫と桃色を散らして。
ヴィーナスのまわりの、きれいなピンクの花はなに?
人の手によって織られたかとみまごうタペストリー は、
まるでボッティチェリの「プリマヴェーラ・春」。
あれ、これは...よく見たら桜じゃない?
はっとして頭上を見れば、そこには満開の八重桜が。
枝の上から下草のベッドに、散らさずに花の姿のまま、ふんわりと落としているのだ。
フローラを散らしたのは西風の神ゼピュロスのしわざ。
八重桜は野暮ったいと思っていたけど、春の最後に知った八重の美しさ。
人里に並べて植えられたら人工的だけど、こんなみどり深い林の中に咲いていると、ことのほか野趣がある。
鄙(ひな)にもまれな美人といった風情だ。
白い花はホソバオオアマナ。
紫の可愛い花はセリバヒエンソウ。
その上に八重のピンクが落ちてくるように、計画して植えたならすごいけど、たぶん不作為のなせる業(わざ)。
ゼピュロスは春を呼ぶ強風を吹き立て、
フローラは色とりどりの花々と芳香を周囲に満ちあふれさせる
植物への祝福は、誰も見ていないところでそっと為されている。
こんなところに遭遇したら、もう神様の存在を疑うことはできないね。