パルファン サトリの香り紀行

調香師が写真でつづる photo essay

ヒュミディテ Humidité

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ときに、遠く内陸まで届く海の匂い。
満潮と低気圧で、海水が川をさかのぼって来るのだろうか。

エレベーターを待つテラスから、重い雲の連なりが見える。

 
 
 
または夏の終わりの夕方。
 
激しい雨が落ちてきたかと思うと突然にやんで、濃密な夜が来る。
 
湿度。
アスファルトの道に流れてくる甘くカンファーでスパイシーな香り。
 
水たまりを避けながら、足早に通り過ぎようとした。
その道脇の小さな植え込みが街灯に照らされている。
 
ローズマリーとタイムと濡れた土の匂い。
大粒の水滴にたたかれて葉から香ばしいエッセンスを飛ばしている。
 
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そしてある晩、古い住宅街の路地を抜けると、
どこかの家の浴室から昔風のシャンプーの匂いが漂ってくる。
 
懐かしく、少し、憂鬱な。
なぜ?
 
小さな頃の記憶が、自分の年齢を哀しませるのだろうか。
 
 
闇と匂い。
風が匂いを運び、雨が落とし、湿度が再び持ち上げる。
 
 
哀しい気持ちは悪いことじゃない。

心が動かないことが不幸なのだ。
 
 
 

 

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