梅は花木の中で特に香りのよい花だ。気品のある姿に比較して、香りは少し妖艶な面もある。赤と白でも香りが違う。
暖かくなってから華やかに咲き、風に揺すられて散る「さくら」と違い、「梅」は厳しさに耐えて花を開き、容易には散らない。
梅のことはひとくちには語りきれない。
「はやく中を見たいからと言って、つぼみを無理に開いてもだめよ。」
そう言われていたのに、子供のころの私はどうしても待ちきれなくて、はなびらをむしってしまった。
現代もまた、待ちきれない世の中だ。
なんでも簡単に手に入り、面倒なことは避けて、たいして執着もなく捨ててしまう。
それは、幸せなことなのだろうか?
なんでも自分の思いのままになると考え、傲慢になることが怖い。
「強く願えば必ず思いは叶う」というのは、大志を持つことと努力を払うことおいて正しい。
しかしその意味とは違う次元で、「人生ままならぬ」ことというのは、場面、その局面であるものだ。
いたれりつくせり親切すぎて、苦労なく、便利になるほどに、人は待つことや耐えることを不満に思うようになる。
それは、自らの成長の芽を摘んでしまうこと。
うまくいかないことの積み重ね、苛立ちに耐えながら、希望と言う春を待つ。