パルファン サトリの香り紀行

調香師が写真でつづる photo essay

巴里(パリ)のアメリカ人 1951年/An American in Paris

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若い売り子さんが、マダムに香水をお勧めしている、ここはパリの香水店。

ミュージカル映画の傑作で、アメリカ人の画家とフランスの女の子の恋の物語。中で出てくる、ジーンケリーの「雨に歌えば」はあまりにも有名だ。今のハリウッド映画に比べて、テンポもゆっくり。たあいない恋愛ドラマだが、歌もダンスも正統派、古き良き時代を偲ばせる。

 

さて、レスリー・キャロン演じる主人公リズはパリにある香水店の売り子。映画の中で、リズがお金持ちの奥様を相手に香水をあれこれ見せているシーンがある。

「香水だけ売っているお店、しかもサロンになっているなんて、すごいー!」

若かった私は、いたく感動した。店の奥正面に、優雅な階段がカーブを描いている。香水の陳列棚の前には椅子があり、白黒映画だったのに、なんか、きらっきらの感じ。胸が高鳴った。

「私も将来こんなサロンが欲しい!!」

聞いた人はたいがい笑うか、まじめに聞いてくれた人は「それは日本では難しいね」と言った。ずっとずっと昔のことだ。

 

香水だけを売るお店、しかもゆったりと椅子があって、じっくりと座って選ぶことのできるサロンのようになっているなんて、よほど香水の需要がなければ成り立たない。

日本では、まだまだ香水の消費量が少なく、マーケットもずっと小さかった。香水を手に入れるのはデパートの化粧品売り場か、免税店で買ってくる海外土産が中心で、自分でつけるためより、贈答品が多かったのも、ヨーロッパとはだいぶ違う。

まだ歴史も知識も経験も浅く、香水のトップノートやラストがどうとかではなく、とりあえず名前で買うことが多かったのではないだろうか。

 

それからしばらくして、パリのキャロン香水店が載っている雑誌にめぐり合う。クリスタルと、淡いピンク、ゴールドに輝く店内をみて、痺れた。またひとつ、憧れが具象性を持った。

 

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歳月の中で、この感激はすっかり眠ったままだった。が、たまたま、調べ物でキャロンの本を開いたとき、懐かしさとともによみがえり、同時に気がついた。これって、今の私のスタイルかしら?

 

私のサロンに来られたお客様は、ゆっくりと腰かけて香りを選ぶ。どんなふうに香りの処方を組んだのか、イメージなどを説明しながら、肌に載せてラストノートまで鑑賞してもらう。すぐに決めなくてもいい。ムエットを持ちかえって、香りのない場所でも試すことをお勧めする。

買ったものの、気に入らなくて鏡台のすみに追いやられる、というのは悲しいから。本当に合うものを選んでもらいたいからだ。完全に、今の香水ビジネスに逆行している。

私は、やたらにたくさん売るよりも、長く、愛してもらいたい。

 

私の夢は、もう叶ったのだろうか?20年間、30年間、シャンパンの泡のように、小さいの大きいの、つぎつぎと夢が生まれている。意識しているのも、記憶の底に沈んでいるのも、叶ったのも、まだのものもある。だから、いつまでたっても次がある。

去年もフランスのビジネスパートナーに将来の野望?を語って笑われた。でも、目標は高いから今よりちょっとは成長するので、初めから低い設定では、そこまでも行けない。

「ちがいますか?」私は彼に尋ねた。彼は答えた。[I am proud of you and your fragrance.]   

 

日々、歓びとともに歩み、振り返れば夢の軌跡。

 

▶ 写真   CARON Edition MILAN / Jean-Marie Martin-Hattemberg より

 

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写真はすべてパルファンサトリの所贓品です。
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